論文概要
本研究では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対する新しい抗菌薬候補を発見しました。この発見には、革新的なシングルセルゲノムシーケンス技術を用いて、未培養細菌のゲノムデータから抗菌酵素遺伝子を探索するアプローチが採用されています。
シングルセルゲノムシーケンスでは、従来の培養法では取得困難だった未知の細菌ゲノムにアクセスすることができるため、従来法では見つけられなかった抗菌酵素遺伝子を探索できます。研究チームは、ヒトの皮膚マイクロバイオームサンプルから得たシングルセルゲノムデータを分析し、96個の新規抗菌酵素遺伝子を発見しました。
この抗菌酵素は、バクテリオファージ由来で、細菌の細胞壁を分解する能力を持ちます。さらに、これらの遺伝子を組み合わせることで、MRSAに対して高い効果を示す人工抗菌酵素の開発に成功しました。開発された抗菌酵素は、従来の抗生物質に比べて迅速な殺菌作用を示し、耐性菌の出現リスクが低いことが確認されました。また、マウスを用いた実験では、MRSA感染症に対する治療効果も実証されました。
この研究成果は、未培養細菌のゲノム情報を活用した新たな創薬アプローチを示すものであり、薬剤耐性菌対策に新たな可能性を提示しています。今後の感染症治療に大きな貢献をすることが期待されます。
本研究はbitBiome社と共同で進めたものであり、シングルセルゲノムシーケンス技術およびデータ解析などは早稲田大学の研究成果をベースにしたものです。
Yoda T, Matsuhashi A, Matsushita A, Shibagaki S, Sasakura Y, Aoki K, Hosokawa M, Tsuda S.
ACS Infect. dis. 2024 Jun 21 https://doi.org/10.1021/acsinfecdis.4c00039
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